痔核(いぼ痔)
内痔核
痛みのない出血と脱出が主な症状です。初期の段階では違和感、異物感、閉塞感などのこともあります。
脱出を繰り返すと裂肛(随伴裂肛)を伴うことがあり、強い痛みが伴ってきます。
内痔核は脱出の程度から4段階に分類されます。
- I度:肛門の中でふくれているが脱出することはないもの。
- II度:排便時に脱出するものの排便が終わると自然に戻るもの。
- III度:排便時に脱出し指で戻さなければならないもの。
- IV度:入れてもすぐ脱出し、戻らないもの(脱肛)。
痔核の中には、肛門内の皮膚と直腸粘膜の接合部付近にある静脈叢(静脈の塊)が発達し、うっ血して大きく膨れ脱出するタイプと、粘膜が緩んでスライドするように脱肛するタイプがあります。
狭い意味では前者を痔核と呼びますが、広い意味では両方を痔核として扱います。
痔核は決して自然には消失しません。消長を繰り返しつつ、徐々に悪化していきます。
痔核の原因はまだ、はっきりとはわかっていません。かつては、いきみなどで静脈叢(痔核組織)が繰り返しうっ血して増大し、脱出するようになると考えられていましたが、最近は、支持組織の緩みが起きるのが始まりで、それにより静脈還流が悪化して血液がうっ滞し、痔核が増大すると言われるようになってきました。
痔核は主に、肛門を時計にみたてて、3時(左側)・7時(右後方)・11時(右前方)の3ヶ所に発生すると言われてきました(主痔核)。確かに3ヶ所できることは多いのですが、発生部位はかなり個人差がみられます。また3ヶ所すべて同じ大きさでないことや逆にそれ以外に痔核が発生すること(副痔核)も少なくないため、治療に当たっては、痔核の位置と大きさを正確に把握しなければなりません。
治療について
I~II度は軟膏や坐薬などで治療します。しかし、Ⅲ度以上やⅡ度でも出血が多い場合や痛みが強い場合は、手術治療が最善の方法です。その他、硬化療法やゴム輪結紮法も行われますが、再度痔核の出現を認めることも少なくありません。
手術治療
現在の主流は結紮切除術と言います。痔核のあるところだけを切除します。
しっかりした手術をすれば、再発することはありませんので、最も確実な方法といえます。
肛門の縁より2cmほど離して皮膚を切開し、肛門括約筋から静脈叢を剥がしとります。
奥は痔核組織の上縁まで十分に切除します。太い痔動脈が痔核組織に向かってきていますので、それを結紮し確実に止血し、痔核組織を切りとります。
術式は、創を縫い閉じない方法(開放術式)と奥の半分だけ縫合する方法(半閉鎖法)がありますが、便で汚染される場所であるため、肛門の外の傷(ドレナージ創)を十分にとるなど、化膿させない工夫がなされています。当院ではケース・バイ・ケースで行っております。
通常の場合、痔核は3箇所に認めることが多く、再発のないしっかりした手術を行うためには、7-10日間の入院が必要です。
手術は腰椎麻酔で行い、手術時間は30分前後です。術後の痛みには、頓用で鎮痛剤を用いますが、十分に効果は得られます。
手術翌日から、食事は普通食を食べていただき、排便をしながら治していきます。必要なら下剤も使います。
その他、手術後は出血の注意が必要で、術後2-3週間は気をつける必要があります。
ほとんどないのですが、100-200人に1人位、止血を行う事があります。
1箇所のみの痔核で、軽いものであれば日帰り手術(1日入院)も可能です。
この場合は、仙骨硬膜外麻酔という尾てい骨のところに打つ麻酔を用います。
ジオン四段階注射法
最近行われるようになった硬化療法の1つです。
痔核の程度にもよりますが、硬く縮小し症状も軽減します。
ただ、痔核は残るため、再発はないわけではありません。注射量とも相関し、しっかり注射しないと高い効果は得られません。
治療は日帰り入院で行いますが、打った後は中で腫れるため、重いような鈍痛と排便しにくい感じが2-3週間続きます。痔核が腫れている方、腎臓などの悪い方、妊婦さんは、この薬が使えません。
また、軽度の出血や微熱などの軽い合併症から潰瘍や膿瘍形成、狭窄などの重い合併症もあるため、十分に経験を積んだ専門医により行われなければなりません。
当院でも行ってはいりますが、大きな合併症はありません。ただ、痔核根治手術が必要な方ですと、数年で再発する例は少なくありません。
外痔核
肛門の縁に突然痛みを伴ったやや青紫色のしこりができます。
これは血の塊(血栓)ができた状態です。
多くの場合、きっかけとなるエピソード(たとえばいつも以上に下痢が続いた・便秘をして苦労した・アルコールを飲みすぎた・非常に長く座っていた・激しい運動したなど)があります。
純粋に肛門の外のみで腫れが認められる場合と内痔核の腫脹も伴って大きく腫れた場合とがあります。
治療について
純粋の外痔核は、薬でよくなることが多いですが痛みが強かったり、血栓が大きくなかなか腫れがひかない場合は血栓を取り除く手術(血栓除去)をすることもあります。
外痔核は、内痔核をもった方ほどできやすいと言われており、内痔核の腫れも伴っている場合は下手に血栓除去を行いますとさらに腫れたり出血が止まらなかったりします。
専門医の適切な判断が必要です。
裂肛(きれ痔)
急性裂肛
肛門上皮が浅く裂けている状態で、できてから日が経っていないものです。
かゆみを感じることもありますが、多くは排便時の痛みと出血です。
出血は痔核と比べ少なく紙につく程度です。
時には便器が赤くなるほど出血することもあります。
治療について
軟膏や坐薬で治療し、多くは治癒します。
しかし、何箇所も切れていたり、肛門の緊張が高い場合には、麻酔下に肛門括約筋を伸ばし肛門を広げることで痛みを和らげ治癒につなげていけます。
肛門を弛緩させる薬を試すケースもありますが、頭痛などを起こす場合もあり、注意が必要です。
局所麻酔下に肛門括約筋を切開する方法もありますが、手技的に難しく安易に行う方法ではありません。
慢性裂肛
常に同じ場所が切れ、深くなり、その周囲に肛門ポリープやみはり疣・皮垂などが出現した状態です。
切れ目がさらに深くなり(肛門潰瘍)、周囲に炎症がおきると括約筋に線維化がおき硬化して肛門が狭くなります(肛門狭窄)。
化膿することもあり(化膿性肛門潰瘍)、そこから痔瘻を形成することもあります(裂肛痔瘻)。

治療について
薬の治療ではよくなりません。
肛門を広げる手術をします。
まず、治ってない裂肛と線維化がおきて硬くなった部分とその周辺のみはり疣・ポリープを同時に切除し、肛門を広げます。
裂肛痔瘻も同様です。しかし広がることで、皮膚(肛門上皮)が不足するため、そのすぐ外側の皮膚を一部ずらして、
直腸粘膜に縫い付ける方法をとることもあります。
痔瘻と肛門周囲膿瘍
肛門の中から細菌が入り込み肛門の周りに炎症が強く起きて膿んだ状態が肛門周囲膿瘍で、炎症が比較的落ち着いて肛門の中と外がトンネルでつながっている状態が痔瘻(あな痔)です。
両方は、本質的には同じものです。特に肛門より奥が化膿している時は、直腸周囲膿瘍といいます。
肛門周囲膿瘍では、肛門の周りあるいは奥が腫れて痛く、場合によると発熱や排便障害などが出てきます。肛門周囲膿瘍で膿が出て炎症が治まると、痔瘻となりしこりとして残ります。
痔瘻は、しこりのみで痛みのない場合や押せば痛みを感じたり、常に分泌物が出ているなどの状態があります。肛門の中で、細菌が入り込む穴を一次口といい、肛門小窩(肛門腺の開口部)にあたります。
皮膚から膿の出ている箇所を二次口といいます。一次口と二次口の間のトンネルを瘻管といいます。
両者はその形と広がり方から次のように分類されます。
- I.皮下あるいは粘膜下痔瘻(膿瘍)
- II.内外筋間痔瘻
- IIL.低位筋間痔瘻(膿瘍)
- IILS.単純型
- IILC.複雑型
- IIH.高位筋間痔瘻(膿瘍)
- III.坐骨直腸窩痔瘻(膿瘍)
- IIIU.片側型
- IIIB.両側型(馬蹄形)
- IV.骨盤直腸窩痔瘻(膿瘍)
痔瘻の治療


根本的に治すには、手術を行います。
そのやり方は、瘻管を開く方法、切除する方法、くりぬく方法などがあります。
痔瘻の形や広がり方、肛門からの距離、深さなどで、選択されます。
その他、一次口と二次口にゴムなどを通して縛り、徐々に切っていくシートン法という方法もありますが、瘻管がまっすぐでなかったり、一次口がわかりにくい場合には不可能な方法で複雑なケースは治療に非常に時間がかかります。
痔瘻は瘻管をすべて切除するか、開放するかが、治療の基本です。不十分な治療では、治癒せず再発を繰り返します。
しかし、切除や切開をやりすぎれば肛門が変形し深い傷跡が残り、肛門機能も悪くなります。
再発や変形がなく、肛門の機能が悪くならないことが最重要です。
痔瘻は、長く放置して炎症が繰り返されると、徐々に大きくなったり、深くなったり、枝分かれして広がったりします。
できるだけ早い段階での手術治療が望ましいです。
肛門周囲膿瘍の治療
切開して、膿みを出すのが一番の治療です。
表面に近い小さなものは、局所麻酔で十分に膿みを出す処置ができます。しかし、深いものや範囲の広い場合は局所麻酔ではできないので、腰椎麻酔の下で切開排膿、隅々まで開放し、ドレーン(膿を出すチューブ)を挿入します。
炎症が治まれば痔瘻が形成されます。
特殊な痔核
嵌頓痔核



内痔核が大きく腫大脱出し、肛門括約筋で絞扼されることにより発生します。
循環障害により痔核表面が壊死に陥り周囲にはかなり強い浮腫を伴います。
痛みは強く周囲の浮腫が強いため還納することは困難です。
治療について
痛みが非常に強い場合は手術を行いますが、投薬により3~4日して痛みや腫れがひくものは、症状がないほどに改善する場合場合もあります。
しかし普段から脱出を繰り返している方は、早い段階での手術治療が望ましいです。
特別な裂肛
クローン病の裂肛
肛門に潰瘍を形成します。この潰瘍は通常の裂肛よりもひどく大腸にもみられる縦走化の傾向があります。
治療について
クローン病の治療を行います。
薬物治療が中心ですが、非常に直りが悪く、疼痛が強い場合は手術で切除すれば疼痛を軽減させることはできます。
肛門梅毒
これは梅毒の初期にみられる硬性下疳にあたり、感染部近くに発生します。
治療について
梅毒の治療を行います。
普通の裂肛とは明らかに形態が違い、軟膏などの治療では全く改善しません。
疑った場合は血液で梅毒の反応を調べ、陽性であるなら速やかに駆梅治療を行います。
特殊な痔瘻
クローン病の痔瘻
クローン病では、痔瘻を合併することが多く、非常に複雑な形となります。
直腸に一次口がみられることもありますが、通常の痔瘻の場合もあります。
治療について
手術による根本的な治療は行えません。
まずは、クローン病に対する治療を行い、肛門に対しては、膿がたまらないようにドレナージする(ゆるいシートン法など)ようにします。
Fournier's gangrene(フルニエ壊死)
壊疽性筋膜炎ともいう稀な疾患で、直腸肛門周囲膿瘍の非常に重い状態です。
嫌気性 菌の混合感染あり、
通常の肛門周囲膿瘍を長く放置したり糖尿病などの基礎疾患がある場合におきることがあります。肛門会陰部、鼠径部まで広く、深く広がり、併発する非常に重篤な疾患です。
その範囲は、肛門周囲から、睾丸、陰茎、下腹 部、大腿部、さらには直腸に沿って後腹膜にも及ぶことがあります。
糖尿病などの基礎疾患のある方にみられる傾向があります。
治療について
発症してから一週間以上していることが多く、来院すぐにできるだけ、広範囲にそして深く、切開・排膿し、壊死に陥った組織を除去します。壊死が広がることを予想して、先回りし可能な限り、広範囲に行うことが重要です。
重症感染症としての全身管理も必要です。
痔瘻がん
10年以上治癒しない痔瘻がある場合(手術治療をしたしないにかかわらず)は、がんの存在を疑わなければなりません。
その分泌物はゼリー状のことが多いのですが、分泌物には細胞の成分が少ないので、痔瘻の一部を切除して検査する必要があります。
痔瘻の形をとって発症する、肛門腺由来の肛門がんもありますが、厳密には痔瘻がんと区別されます。
治療について
肛門管がんに準じます。
白血病
肛門周囲膿瘍を認めることがあります。強い痛みがあります。切開しても排膿はありません。
治療について
早急に白血病の治療を行う必要があります。
直腸脱
直腸が粘膜から筋層まで全層で垂れ下がって肛門より脱出します。
直腸を支持する組織の緩みにより発生しますが、肛門括約筋の緩みも認めます。
治療について
脱出した部分を中に戻すためには手術が必要です。
最も簡単で、普及している方法はGant-三輪法+Thiersch法で、粘膜を小指の先くらいにつまみ、糸で縛ります。
それを数十箇所行うと直腸は縫縮され中に戻ります。
しかし、肛門の括約筋が弛緩していますので、それをナイロン糸などで、適当な大きさに絞めます(示指が入るくらい)。
その他、開腹して、直腸を吊り上げて腹壁に縫い付ける方法や出ている部分の粘膜を剥がし取り縫合する方法、脱出している腸を切除する方法などがあります。
肛門尖圭コンジローム
性感染症の一つです。ウイルスによるもので、痒みがつよく、1mm前後の小さな隆起が散在しているものから、それらが集まりカリフラワー状になったものまであります。
治療について
もっとも確実にそして、早く治せる方法は切除です。
隆起した部分を剥がし取るだけの簡単な方法で、跡もほとんど残りません。軟膏による治療もありますが、正常粘膜に付着して皮膚障害がでます。凍結療法、焼灼療法などもあります。
膿皮症
臀部の皮膚に好発し、皮下に膿瘍を形成します。細菌感染は、皮膚の汗腺や皮脂腺におきて、皮下にろう孔のような管や膿瘍腔を作ります。痔瘻とにた形態をとりますが、肛門との関係はありません。非常に複雑であったり、広範囲であったりもします。
治療について
切開排膿や瘻管の切除を行ないます。
しかし、非常に複雑に分岐していたり、臀部全体に広がっている場合などは非常に難治性で、皮膚が不足した場合は皮膚移植が必要なこともあります。
毛巣洞
尾骨部に発症する膿瘍で、毛が皮下にもぐりこみ、炎症を繰り返すことにより形成されると考えられています。
毛深く若い男性に多いと言われていますが、女性にもあります。
治療について
切除して、縫合します。
座って圧のかかる場所であり、すぐ下に尾てい骨があるため、創の直りが悪く、抜糸までに2週間ほどかけます。
直腸腟壁弛緩症
直腸瘤とも呼ばれます。直腸と膣の間にはもともとお互いの薄い壁しかありません。
その壁に緩みがおきると、直腸はその内圧の高まりで膣壁を押すようになります。
また、直腸は嚢状に膨らみ、直腸性の便秘を引き起こしたりします。
排便時、膣側が膨らむのでそこを押すようにして排便するなどの症状が出てきます。
治療について
治すには手術を行います。
肛門より直腸粘膜を切除したり、焼灼したりして縫縮する方法を用います。
膣粘膜を切開し、膣側から筋肉を寄せて縫合する方法もあります
肛門周囲皮膚炎
かゆみが強く、特に温まるなど温度変化が起きた時に強くなります。就寝中に痒くなることもよくあります。
肛門周囲の皮膚のただれによるものですが、拭いたり、こすったりして擦過傷を作ってしまうことが原因のひとつです。
皮垂などで汚れが付いたり、残ったりしやすい場合あるいは内痔核や脱肛、肛門括約筋の機能不全で、便や腸内の分泌液などが付着し、じめじめしている場合なども発生することもあります。
治療について
軟膏の治療を行います。かゆみが強い場合は、かゆみ止めの飲み薬を用いることもあります。
原因が皮垂や痔核・脱肛などによる場合は、それに対して手術を行います。
WHA(ホワイトヘッド肛門)
ホワイトヘッド手術を受けて、粘膜脱を起こすようになったものをいいます。粘膜の脱出や出血などの症状があります。ホワイトベッド手術とは、約30~40年前までは、痔核の根本的な手術として、広く行われていた手術法で、内痔核の発生する歯状線の辺り(内痔核帯)を全周に渡り切除し、皮膚と直腸粘膜を縫合するやり方です。直腸粘膜と肛門の皮膚との縫合線が肛門外にきていたり、年月が経過すると支持組織を失った粘膜側が脱出し、出血を起こしたりもします。
治療について
痔核の手術と同様に、脱出する粘膜を切除します。
皮膚と直腸の縫合線が外に出ている場合には、皮下で剥離して肛門内に引き上げたり、縫合線を一部切除してすぐ外側の皮膚を肛門内に引き込み縫い付ける方法もあります。
肛門管がん
肛門に発生するがんです。痛み、出血、便が出にくい・細いなどの症状があります。
治療について
程度によりますが、外科手術が中心です。
放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせることもあります。
Paget病
皮膚の悪性腫瘍です。境界のはっきりした難治性のびらんを形成し、かゆみを伴うこともあります。肛門周囲の湿疹との鑑別が必要です。
治療について
悪性度の低いがんではありますが、広い範囲での切除が必要です。
その他の悪性腫瘍
悪性黒色腫、Bowen病、基底細胞がんなどの皮膚がんがあります。